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医学生と考えるダイバーシティの会 2023 ご報告

更新日:2023年2月12日

2023年1月14日 講演会 スポーツ医学のすゝめ 講演報告

報告:JCHO北海道病院 呼吸器内科 長井 桂

         (学生委員)札幌医科大学 館山 紋奈・鶴田真唯・

岩舩令佳・木原花野・田口智浩


本年度の講演会はWebも交えたハイブリッド形式で3年ぶりに現地開催を行った。


1.寺本篤史先生 (札幌医科大学 整形外科)


 スポーツドクターは、幅広いさまざまなスポーツ活動による外傷・障害やスポーツ活動に影響を与える疾病などの診療のほか、アスリートの現地同行も行う。今回は特に選手と関わる場面のお話を伺った。

 寺本先生がスポーツドクターを志す契機となったのは、先生が大学3年時に、プロ野球の桑田真澄選手がジョーブ医師による肘の手術(トミー・ジョン手術)を受けた際の報道を知ったこと。医師がスポーツに関われるということに興味をもたれた。先生がいろいろなご活動を経験された中で、私たち学生にご助言として、自分の取り組みたいことを明確に持つことがその実現に向けて大切になるということを教えていただいた。

 先生のこれまでの現場でのご活動としては、コンサドーレ札幌のチームドクター(Jリーグの試合には医師が必須)から、全日本スキー連盟でのご活動、2020冬季ユースオリンピック・東京オリンピック・北京オリンピックのご同行など。各大会での先生方のアイディアによる選手のサポート、実際のアクシデントの対応といったお話のほか、コロナ禍以前のユースオリンピックではインフルエンザ流行防止が鍵であったこと、スケートボード競技での現在のヘルメット着用ルールの難しさなどのお話を伺った。


 

2.寺本瑞絵先生 (NTT東日本札幌病院 産婦人科)


 次に、「産婦人科による女性アスリート支援」と題し、NTT東日本札幌病院産婦人科の寺本瑞絵先生に講演をしていただきました。以下に内容を記載させていただきます。

 女性医学の一領域として女性アスリート支援があり、障害や損傷があった時のサポートというよりは、土台を作ってアスリートがその時点で望む良い成績を残すためのサポートや、競技人生だけでなくアスリートの一生涯を考えたサポートを行っている。スポーツ医学センターを受診される科としては産婦人科が2割程度を占めており、その重要性は大きい。しかし、実際に女性特有の問題で競技に影響を及ぼしたことがあるアスリートは多いにも関わらず、症状があっても婦人科を受診しているのは約4%と少ないという問題もある。女性アスリートの3主徴としては、①摂食障害の有無を問わないエネルギー不足、②視床下部性無月経、③骨粗鬆症が挙げられる。これらは現在の競技成績や将来の生活・人生に影響を及ぼす可能性もあるので慎重に対応する必要がある。また、性周期の時期によって筋肉の強さや関節の柔らかさは変わるので、競技によってコンディションの良い時期は異なる。さらに、無月経に対しては摂取カロリーを増やすことが推奨されているが、実際に行えば選手は受診しなくなるだろう。したがって、それぞれの選手に合わせたアプローチをすることが大切である。TOKYO2020では女性アスリート科で診療なさった。その中では、ドーピングに気を付けた処方や、自国に戻ってから継続した治療を行えるのかといったことも意識されたと伺った。このように国際大会では、予選・本選の日程の確認や国に合わせた対応も大切である。最後に、アスリートが何を望んでいるかを把握するとともに、エビデンスに基づいたブレない信念と、アスリートの立場に立ちナラティブな部分も大切にした支援が重要であるというメッセージで講演を締めくくられた。


3.大城和恵先生 (北海道大野記念病院 循環器内科・山岳登山外来)


 「山の魅力と山岳医の仕事」と題し、北海道大野記念病院循環器内科・山岳登山外来を担当なさっている大城和恵先生に講演をしていただいた。

 先生は山岳医療を、エベレストに最初に登頂し山岳医療にプライドを持つイギリスで勉強された。このご経験が現在の先生のキャリアに繋がっている。また、先生ご自身が世界中で数多くの山に登り、教科書では学べない身体の変化を実際に経験して、人間の身体の限界や可能性に触れられている。例えば、夜は酸素を吸わないことで山の高度に慣れることが重要だと一般に言われていたが、先生は夜に酸素を吸ってみたところ次の日の調子が良かったというエピソードもあったそうだ。山岳医療では具体的に、血圧測定といった健康チェックが多く、対象は自国のメンバーに限らず、荷物を運んだり案内をしてくれたりするシェルパさんといった現地で支えてくれている人達の診療も含まれている。山岳医療の特異性の一例として、点滴を行う時は、-20℃といった環境でゆっくり行うとすぐに冷めてしまう。よって、湯たんぽで温めながら静注程度のスピードで流すという工夫をなさっている。さらに針も限られているので、1回失敗したら同じ針をもう一度使うこともあるという。三浦雄一郎さんのアコンカグア登山に同行した時には、三浦さんは心疾患があるので心停止のリスクがあると考えていた。よって心停止を起こしても亡くならないで帰ってくることを目標とし、現地のガイドさんを含めた綿密なシミュレーションを行い、各々の役割や使用する器具を持つ人の確認に努めたそうだ。日本の山岳遭難で死亡した人を調べると、救助隊が接触時の生存率は3.5%であった。特に北海道では発症が分かりにくい低体温症が死因の最多という特徴もある。心臓疾患の場合、登山道上での発生が多いので発見はされやすいが、生存率が低く、山へ行く前の予防が大切だ。このように、山岳医療を山でかっこいいことをするものと捉えるのではなく、社会に貢献するためにデータをきちんと集めてそれに基づいた医療を行う必要性も忘れてはならない。したがって、医師としての研鑽をまずは大切にするべきであるというメッセージをいただいた。



ディスカッションタイム


 3名の先生が参加者の質問に直接答えていただいた。

 ケガ等の再発予防のためにはやはり定期的なメディカルチェックが大切である。婦人科受診のハードルは高いが、一度婦人科の担当医とコネクションができると積極的に相談しやすい。神経内科を目指しているがスポーツ疾患との関係は?という質問にはボッチャなどのパラアスリート競技が勧められると教えていただいた。英語はどのように勉強すればよいのか?という質問には3名の先生は皆、基礎的な英語の学習はある程度重要だが、まずは医師として経験を積み、何を伝えたいかをはっきりさせることが最も大事との見解だった。その他、スポーツ選手とそれ以外の人のケガの治癒には違いがあると思うがどのように見極めるのか、専門外の疾患を診る時はどうしているのか、登山で命の危険を感じたことはないか、多種のスポーツに対応するのはどのように学んだか、スポーツ医学にデータ解析やAIの活用はされていくのか、など沢山の質問があった。




 


【開催趣旨】

今年で12回目となる本フォーラムでは「スポーツ医学」について取り上げます。北海道ではウィンタースポーツが盛んなこともあり、スポーツ医学のニーズは非常に高いと感じます。スポーツ医学と一口に言っても、関わる診療科は整形外科をはじめ、心肺機能や貧血・拒食症、心身不調といった疾患を扱う内科、女性アスリートの支援を行う産婦人科といったように、多岐に渡っています。本フォーラムでは、スポーツ医学について様々な視点からのお話を伺い、スポーツ医学の現場の実態や各診療科の関わりについて学ぶ機会になると考えております。 また、日常診療では遭遇することが少ない山岳医療についてのお話を伺う希少な機会でもあります。

3年ぶりに対面開催の予定です。お時間のある方はぜひご参加下さい。


【企画概要】

日時:2023年1月14日(土)14:00~17:00

場所:北海道大学病院臨床研究棟1階 大会議室

(北大病院救急玄関向かい)


【内容】 テーマ;「スポーツ医学」     スポーツ医学のすゝめ~整形外科・産婦人科・内科からのアプローチ~

1. 寺本篤史先生(札幌医科大学 整形外科)北京五輪日本選手団ドクター 2. 寺本瑞絵先生(NTT東日本病院 産婦人科)女性アスリート支援 3. 大城和恵先生(山岳医療機構、北海道大野記念病院)循環器内科・山岳登山外来 【主催】:北海道女性医師の会、北大キャリアシンポジアム実行委員会、札幌医大キャリアフォーラム実行委員会



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