• 北海道女性医師の会 広報委員

2019医師と学生の会「あなたの心がこわれる前に・・・~医療者のメンタルヘルスを守ろう~」

最終更新: 1月19日


2019医師と学生の会 報告書


「あなたの心がこわれる前に・・・~医療者のメンタルヘルスを守ろう~」


JCHO 北海道病院 長井 桂





日時:10月5日(土) 14:00~17:00    参加人数;20名

場所:北海道大学 臨床研究棟1階大会議室 札幌市北区北15条西7丁目


 医師と学生が共同でテーマを考え実行するこの会は平成24年から札幌医科大学と北海道大学合同で開催してきました。

 今回はヘルスケアをテーマに専門の先生からお話を伺いました。


①久村 正也先生:札幌心身医療研究所所長、北海道産業保健総合支援センター産業保健相談員


 「医師と働き方改革―長時間労働と健康障害、および今後の課題―」というテーマで、まずは長時間労働について詳しくお話いただきました。長時間労働により体内時計と生体リズムの狂いが生じ、血糖やコルチゾール、自律神経系の異常が起こることにより脳出血、心筋梗塞、精神障害が生じます。通常よく知られている中枢の体内時計の他に各臓器に体内時計があり、この中枢と末梢の体内時計の狂いが脱同調現象をおこし疾病に繋がることを教えて下さいました。 

 日本はどの年代の医師も他国より労働時間が多く、特に若い世代は60時間/週以上となっています。長時間労働の原因としては医師不足が挙げられ、1980年頃から医療費抑制のための医学生減少政策を行ったため、今や医師数は10万人不足していると言われます。勤務医アンケートでも自身の健康不安が最も上位となり、長時間労働と関係していると考えられます。一方女性の休職理由としては出産・育児がほとんどであり、35歳時点で就職率が80%を切る状況です。しかし、平均の就業率は男性 90%、女性83%と極端には違わないことから、医師不足さえ解消できればこの差を埋めることができるのではないかとのことです。ところが、現在医学部に入学した学生さんが第一線で活躍するには10年以上の月日が必要であり、すぐには医師不足は解決しないことから、当面医師の長時間労働は黙認される状況であり、名ばかりの「働き方改革」であると考えざるを得ないでしょう。医師の応召義務は行政の責任下に生じるもので医師個人の責務問題ではないとお話下さり、何とか医師の健康を守る必要があると強く、温かいメッセージをいただきました。


②竹内 恵先生:北海道大学病院 医療技術部(神経内科外来/安全衛生管理室)」


 「心のセルフケア 出来ることから一つずつ」 という題名で美しいスライドとともに、ストレスによる心身の影響、医療者とストレスについて解説を始めて下さいました。終わりが見えにくい仕事、オンコールなど職場を離れていても緊張状態が続くなど、ストレスに立ち向かう時間が長すぎると疲弊し、免疫力の低下がおきることが知られています。ストレスに負けないために、積極的にアサーティブなコミュニケーションを心掛けるようにと教えて下さいました。アサーティブとは相手も自分も尊重した自己主張であり、最も心身のストレスが少なくなります。また、昨今問題になっているパワハラについても社会的背景の違いが価値観の違いへとつながることから、その背景として世代間ギャップが関与しているようです。現代の医療にチーム医療は不可欠であることからスムースなやり取りができる関係づくりでストレス予防を心掛ける重要性についてお話いただきました。もしも調子を崩してしまったら、まずは休息と栄養補給は必須であり、エネルギーが充電出来たら一人もしくは他の誰かと一緒に気分転換をすることがとにかく重要であるとのことです。もし友人や同僚が調子を崩してしまったら、体の不調を心配した声掛けをさりげなく行うこと、相手が話を打ち明けてくれた時はとにかく相手のペースで言葉を挟まず最後まで聞くこと、「期待して」「みんな通った道だよ」「考えすぎだよ」などのNGワードをかけないことの重要性を教えて下さいました。具体的かつ分析的な今回のお話は、今後遭遇するかもしれない不調の芽を摘むのに重要だと思います。


③ 橋本 恵理先生:札幌医科大学医学部神経精神医学講座 准教授


 橋本先生には精神科医として疾患についてのお話を中心にしていただきました。メンタルヘルス不調の前段階として規則正しい生活が乱れる徴候があり、ストレス状態で出てきやすい心身の症状がほぼ毎日、一日中、2週間以上続いた場合は、速やかな専門医の受診が望ましいと話して下さいました。「抑うつ状態」というのはうつ病に限ったものではなく、統合失調症やパニック障害など他の精神疾患にもみられる症状であること、統合失調症などは自分と全く関係の無い疾患だと思ってしまいがちだが、発症年齢は若く学生さんが罹患する疾患として否定できないことなどの観点からも専門医の受診の重要性を説いてくださいました。また、身近な人が精神的に変調をきたしていると感じた場合は「疲れてるみたい」など体調を心配する声かけがお勧めで、週をまたいで3日くらい続けて言うことがポイントとのことです。本人がそれなりに思い当たることがあるのであれば、体調を指摘されることでだんだん「自分は病気かもしれない」と気づいてくる、など明日にも実行できる方法をご指摘下さいました。最近先生が気になることとして、他者評価を気にして、承認欲求が強すぎる人が多いこと、集団の中での「公平さ」の捉え方が不自然な人が目立つなどがあるようで、この点については同意する人が多いかと思います。最後に橋本先生自身が患者さんに教わった「無財の七施」(むざいのしちせ)という言葉を教えてくださいました。日常生活においてお金がなくても、物がなくても周りの人々に喜びを与えていくことで自身を高めることもできるという仏教の教えで、にこやかに、優しい眼差しで人の話を聞くということだけでもよく、まさに医師ができることの一つではないでしょうか。


 講演の際には3人の講師の方を囲むような形でトークセッションがあり、自身の体験を共有してくれた先生や、辛い時にどんな言葉をかけたらよいのか、これから社会に出る学生さんへのアドバイス、ストレスの対処方法など具体的なお話をすることができました。久村先生の、「過去と相手は変えられない」という言葉は大変参考になり、その中で自分の気持ちに折り合いをつけていく作業が必要だと感じました。

 終了後の懇親会でも大変に盛り上がり楽しい時間を過ごすことができました。