2022年3月26日(土)14:00~16:00 Web講演
「知っておきたい女性の体の悩み~医療現場で健やかに働くために~」
(学生委員)
北海道大学医学部医学科 有田梨乃
札幌医大医学部 中村理奈・館山 紋奈・鶴田真唯
2大学合同講演会は本年度より「医学生と考えるダイバーシティ推進の会」と名前を変えて行いました。
① 「予防できる女性特有の病気。とっておきたい(温存) 優位な卵子」
堀本江美先生(医療法人ブロッサム理事長 苗穂レディスクリニック)
1つ目のご講演では、「予防できる女性特有の病気。とっておきたい(温存)優位な卵子」という演題のもと、医療法人ブロッサム苗穂レディスクリニック理事長の堀本江美先生に講演をしていただきました。内容は以下の通りです。
ジェンダー平等を実現するためには、「性と生殖に関する健康と権利(Sexual and Reproductive Health and Rights:SRHR)」の考えのもと、性意識や性的思考の多様性を理解し性知識を身に付けることが重要である。
近年、女性特有の病気である子宮内膜症や子宮筋腫の発症率が増加している。その原因として、出産率の低下ならびに月経開始年齢の低下による生涯の月経回数の増加が考えられる。子宮内膜症は、不妊症や流産、がんの原因になり得る病気である。月経痛が重度の場合には子宮内膜症の恐れがあるため、早期受診が大切である。子宮筋腫は、多量の出血を伴い、閉経後にエストロゲンの減少により自然に回復に向かう病気である。治療には鎮痛剤、ピル、ジェノゲスト、GnRHアナログ、IUS等が用いられる。ピルを使用する際には、足の痛みや胸痛、頭痛等の症状をもたらす血栓症に注意する必要がある。子宮内膜症や子宮筋腫は、排卵時にエストロゲンが大量に放出される「エストロゲンのシャワー」により悪化する。さらに、エストロゲンは精神面にも多大な影響を与えると言われており、月経後の卵胞期は最も精神状態が良いことから、人生の決断は卵胞期に行うべきである。
妊娠や出産に関して、卵子の温存には、サプリメントを有効活用した葉酸の摂取が推奨される。また、出産の際に母子感染の危険性がある性感染症の中にはワクチンで予防が可能なものもある等様々な知識を身に付けることが、感染の防止につながる。
日本女性財団ではクラウドファンディング等を活用し、金銭面に問題を抱え治療を受けられない女性に対し適切な治療を受ける機会を設ける活動をしている。
② 「 閉経後骨粗鬆症 ー整形外科医からのアプローチ- 」
射場浩介先生(札幌医科大学整形外科 准教授)
2つ目のご講演では、「閉経後骨粗鬆症~整形外科医からのアプローチ~」と題し、札幌医科大学整形外科学講座准教授の射場浩介先生にご講演をいただきました。以下に内容を記載します。
人間の骨量は、年齢とともに減少することが知られている。その中で注目すべき点は、人間の骨量は20代後半にすでに決定している点と、女性の閉経後に急激な減少が見られるという点である。
骨粗鬆症は骨吸収と骨形成のアンバランスによって発生する代謝異常であり、骨強度が低下している状態を指す。先述したように、閉経後に骨量が急激に減少することから女性で特に注意すべき疾患である。また、骨粗鬆症そのものは症状を示しにくい。問題となるのは、椎体骨折や大腿骨頸部骨折、橈骨遠位端骨折に代表される脆弱性骨折であり、骨粗鬆症は代謝疾患かつ運動器疾患であることを認識しなくてはならない。骨折は患者の生存率や生活能力の低下につながるため、骨折の予防は治療目的の中心であり、その中でも初回骨折予防より再骨折予防が重要視される。
治療は薬物治療が行われ、骨粗鬆症は薬物治療で予防可能なエビデンスを有する唯一の外傷性疾患といえるが、患者の約80%は未治療といわれている。その原因として、骨粗鬆症は症状がないことから骨折につながるというイメージを患者が得られにくいことが挙げられる。これをふまえ、治療率や治療継続率の向上を目的に、現在ではリエゾンサービスなどが開始されている。
③質問コーナー
自分や周りの女性の身体の変化に柔軟に対応するために一緒に学び考えてみましょう!
司会:札幌医科大学と北海道大学の学生委員
質問コーナーでは、講師の先生方に、まず事前に参加者からいただいた質問をさせていただき、その後、今回のお話を聴いて生じた質問をさせていただきました。質問内容は以下の通りです。
生理が辛い日などはどう乗り越えているか。当直などで役に立つグッズや対策は?(事前質問、学生)
A.プロスタグランジンを身体の外に早めに出すことが大切である。よって使い捨てカイロで温めることで血管を拡張させたり、水分を沢山とって尿で排出したり、お菓子の成分が血管内で渋滞を起こさないようにお菓子の一気食いはやめたりすることが効果的である。また、ピルなどを使う前段階で、鎮痛剤の他に子宮収縮抑制剤であるズファジランもよく効く人もいる。(堀本先生)
子宮頸がんワクチンについて教えてほしい。(事前質問、学生)
A.HPV予防ワクチンのキャッチアップに関してはネットニュースでは取り沙汰されているが、まだ通達はきていない。HPV予防ワクチンはもちろん推奨する。HPV予防ワクチンは、自分自身の子宮頸がんを70%予防できるだけでなく、出産のときに赤ちゃんの口からHPVが入ってうつってしまうことも予防できる。世界では男性も接種しようという流れになっていて、日本でも認められた。今後、男の子のHPV予防ワクチンデーというイベントを開催する予定である。(堀本先生)
整形外科医が忙しく時間を割けないなら、リハビリの先生や看護師が骨粗鬆症の予防や継続治療の大切さを指導すればよいと思うが、整形外科学会ではそのような動きはあるのか。(医師)
A.リエゾンサービスは全国展開しており、骨粗鬆症学会で整形外科・内科・産婦人科の先生やコメディカルの方を含めて学会での認定制度を作り、知識を習得し、指導していくという組織づくりをしている。最近は二次骨折にも注目した啓発活動の重要性も整形外科では注目しており、医師からだけでないアプローチの重要性も認識している。(射場先生)
骨量は若いうちに決定してしまうので、若いうちに出来ることはあるのか。(医師)
A.10代のうちが大切である。女性アスリートの減量や食事制限で骨折を起こしてしまうのが今いちばん問題視されている。日本には10代の時に骨を指導するというシステムはないので、学校教育で単に栄養の話だけでなく、将来的にどのようなことが起きる可能性があるのかという話をし、人生における骨の貯金についての啓発活動を行っていくことが重要である。(射場先生)
健康診断で前腕の骨密度を計ることにはどれくらいの意味があるのか。(医師)
A.骨粗鬆症の診断には使えないが、スクリーニングには使える。前腕の3分の1という骨質の厚い所で計るので、少しでも骨量減少(80%未満)であれば、椎体や股関節で計測する意味はあるだろうと考えられる。骨粗鬆症の治療薬を飲んでも前腕の骨密度には反映されないので、これで治療経過を見るのは不可能である。健康診断で椎体や股関節の骨密度を計るにはコストの問題があるので、日本ではスクリーニングとして前腕の骨密度を計っているというのが現状である。(射場先生)
40代から前腕の骨折が増えるのはなぜか。(医師)
A.はっきりとは分かっていないが、活動性が高いというのが1つのポイントである。転倒してまずは手をつくということも関係しているのではないかと考えられている。ある程度前腕の活動性の高い人でないと起こらないとも言われている。エビデンスはなく、疫学調査が先に出てきたというのが本当のところである。(射場先生)
医師のように長いキャリアでやっていく時に、年代ごとの悩みについてお気づきの点を教えてほしい。(医師)
A.月経を4カ月に一回にコントロールできるピルがあり、自分が好きな時に月経を起こせるのはメリットである。ピルの価格も欧米よりは高いが、自己負担が1カ月650円程度のジェネリックのピルも出てきたので、ピルを上手に使ってほしい。いつ結婚し、いつ出産するかは重要なことなので、それを考えながら動いてほしい。骨粗鬆症に関しては、女性ホルモンは大切なので、天然女性ホルモンのジェルを腕やお腹に塗ったり、シールタイプのものを貼ったりするといった対策を45歳すぎからは始めた方がよい。骨密度や骨代謝マーカーをみることを整形外科の先生にお願いしたい。GSM(閉経関連尿路生殖器症候群)といった外陰部のトラブルを訴える方が最近多いが、そのような方は骨密度が低いことが多く、女性ホルモンと関係があると考えられる。学生はピルを上手に使い、更年期が近づいてきたら女性ホルモンの補充を考えて骨密度や骨代謝マーカーもチェックしながら自分の健康を守っていただきたい。(堀本先生)
女性ホルモンのジェルについて教えてほしい。(学生)
A.女性ホルモンは天然ホルモンなので、医師の処方箋が必要である。女性ホルモンを含有した海外の飲み薬を個人輸入で買って子宮筋腫を大きくしてしまったり、大出血を起こしたりする症例もあるので、女性ホルモンは専門医に診てもらいながら使うことが大切である。(堀本先生)
事前にいただいた質問だけでなく、その場で生じた質問も聞きやすい雰囲気であり、有意義な質問コーナーとなりました。お答えくださった堀本先生、射場先生、ありがとうございました。
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