• 北海道女性医師の会 広報委員

総会講演会②脳腫瘍診断のトピックスと治療耐性メカニズムの解明

旭川医大 病理部 教授 谷野 美智枝先生 にご講演頂きました。


                       苗穂レディスクリニック 堀本江美


 谷野先生の講演は非常に分かり易くまとめられ説明は丁寧で流石!と感心致しました。

脳神経細胞の基礎的な説明から始まり学生時代を思い出して拝聴しました。脳腫瘍の病理診断はおよそ160の組織型があるそうです。


 基礎的な知識として;

脳神経系細胞は神経上皮細胞(ニューロンとグリア細胞)と非神経上皮細胞(下垂体、髄膜、血管など)に分けられる。

ニューロンは感覚・思考・記憶・筋活動の制御などの神経系の特有の機能を担当し、グリア細胞はニューロンを補助し養い保護する役割を担う。


 脳腫瘍は原発性腫瘍と転移性腫瘍に分類され、原発性腫瘍としてはグリオーマ、髄膜腫、下垂体腺腫の頻度が高い。転移性腫瘍としては肺>乳腺>大腸の順に認められる。

 原発性腫瘍は中枢神経に固有の細胞あるいは頭蓋冠を含み中枢神経を覆っている細胞から発生し発症頻度は極めて低い希少がん。特に悪性グリオーマの5年生存率は8%で予後不良疾患である。


 1次性グリオーマと2次性グリオーマの形態学的発症機序としては従来originは別々の細胞と考えられていたが、アストロサイトからde nobo あるいは段階的に遺伝子異常が蓄積して、どちらもグリオブラストーマとなる。


 一方、2005年から悪性腫瘍の遺伝子解読が始まった。ゲノムシークエンス解析競争時代の幕開けである。ゲノムシークエンスとはゲノムの構造を塩基配列レベルで決定するための塩基配列解析のことである。悪性グリオーマの遺伝子解析により組織学的分類の根幹を揺るがす発見があり、グリオーマの分子的発生機序をもとに診断されるようになり、形態診断時代から分子病理診断時代へと変遷していった。遺伝子解析により治療反応性や予後の予測が行われるようになり治療方針の決定の根拠となった。同時にWHO脳腫瘍分類が改訂され形態診断だけではなく分子診断を合わせた統合診断が確立し分子病理診断と呼ぶ。


 悪性グリオーマは極めて予後不要である。なぜなら生命に直結する場所に発生するという性質から完全切除が難しい。放射線や化学療法も行われるが再発頻度は高く更に再発時には悪性度は高くなっているケースが多い。放射線治療に対する耐性を持つことが分かっており、その放射線治療耐性メカニズム解明のための研究を行っており脳腫瘍細胞株を用いた解析のほかに組織標本を用いた解析により同一患者の再発時にはmRNAおよび蛋白レベルでグリア・間葉移行が起きていた。このグリオーマの病理検体を用いた解析や放射線照射実験の成果はNeuro-oncologyで発表されているそうです。


 研究だけではなく臨床も対象であり両輪とのお考えで次世代型の病理診断を目指す先生の姿勢は未来を感じさせるワクワクする講義でした。自分のゲノム解析を気軽に行い病気の予防や最適な治療法がみつかり、先生の目指すバイオバンクの充実で研究資料収集に苦労せずにすみ、病理外来で今後の治療戦略に基づいて生活プランが立てられるようになる、と嬉しくなりました。


 難治性脳腫瘍の克服をも目指す谷野先生のご活躍が益々楽しみであり北海道女性医師の会にこのような傑出した医師が在籍することを誇りに思います。

6回の閲覧